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「なるべく早く着くように」と命じていたら、もっと遅れていただろう

2010.02.22

「パイエハリ」、つまり「きのう着いてろ」「とっとと出せ」の意味だ。バットンはガイドから、「Hurry」とか「Rush」のような言葉をそのままロシア語に置き換えても英語のような切迫感が出ませんよ、と忠告された。もし運転手に「なるべく早く着くように」と命じていたら、もっと遅れていただろう、と。

(『あなたはどれだけ待てますか』(草思社)より)

 

文化によって時間切迫感というものがまったく異なるのは、海外旅行をしたことのある人なら、たぶんみんな知っている。

私はロンドンの二階建てバスで、(たぶん)イギリス人運転手と、アメリカ人観光客の一団が、いきなり喧嘩を始めた時のことをよく覚えている。ちょっとしたカルチャーショックだったのだ。

アメリカ人観光客がとつぜん怒った。どうやら前の停留所で妻が降りたところで、いきなりドアが閉まってしまったのが原因だった。が、イギリス人の運転手はわびるどころか言い返して、「あんたがもたもたしているのがいけないんだろ」という意味のことをいったのだ。 

すると観光客のほうは(この言葉でアメリカ人だと分かったのだが)「家族をドアでひき裂くなんて、アメリカ人には信じられない」と言った(我ながらこのときは、よくリスニングできたものだと感心した)。これに対して、胸からカメラをぶら下げたアメリカ人観光客らしき一団が、一斉に拍手喝采した。

イギリス人の運転手は僕の目にも分かるほどいきり立った表情をしたが、さすがに分が悪いと思ったのか、その場でアメリカ人をバスから降ろした。

私自身の心情的には、どちらの味方をしているのかよく分からなかった。 私も、奥さんが降りたところでいきなりドアをプシューッと閉める運転手は不親切だと感じたが、そのときロンドンはどこへ行ってもものすごい渋滞状態で、みんなイライラしていて、テキパキ乗降しなければいけないような雰囲気があった。

それにしてはくだんのアメリカ人は、いくら何でもゆったりしすぎていたようにも見えたのだ。ただ、何しろその時僕はアメリカ中西部からロンドンへ来ていたお上りさんだったので、 時間感覚的には、ロンドン流儀にあまり好感を抱けなかった。そんなわけで、心理的にどっちつかずの状態だった。

たぶん東京からまっすぐロンドンへ行っていたら、心情的に運転手の味方だった気がする。 

 

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投稿者 : 佐々木 正悟 | 投稿日時 : 2010.02.22 15:35

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