現実逃避から得る力
2009.03.29
| 空中ブランコに乗る中年男 (講談社文庫) | |
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本書に登場する短編『ウォルター・ミティの秘められたる生活』は、心理学の教科書に時々登場する「傑作」ですが、必ずしもそれほどよくできた作品でもありません。
いわゆる自虐的暴露本といった作品の走りで、主人公のウォルター・ミティは、典型的に「さえない男」。奥さんに毎日ガミガミ言われ、なぜか駐車場では警備員に馬鹿にされ、歩いていると通行人に陰口をたたかれます。ここまでくると、現実の話と言うより、被害妄想なのではないかと思えるほどですが、そうなってもおかしくはないようなタイプの人ととして描かれています。
というのもミティは、すぐに現実から遊離して、白昼夢に走ってしまうのです。この転換がちょっと独特で、小説中、どこから白昼夢なのか、よくわからないかきかたになっています。もしかすると作家自身、こういう風に容易に現実遊離してしまうタイプの人なのかもしれません。
もちろん、妄想中のミティは、現実とはまるでちがいます。勇猛果敢な軍人として、部下たちを叱咤激励し、あるいは厚顔不遜な大犯罪者として、地方検事を一蹴します。要するにつねに偉そうです。現実世界では誰もかれもがミティに対して偉そうなのです。
作者はもしかすると、ただおもしろおかしく、そして少々はかない気持ちでこの作品を書いたのかもしれません。が、なんどか注意深く読んでみると、この作品で筆者は、私たちが現実を生き抜くための力の源泉のようなものの、その一端にかいま見せた作品という気がしないでもありません。
投稿者 : 佐々木 正悟 | 投稿日時 : 2009.03.29 01:17





